倉庫の扉に描いた「Mickey」。あるテレビ美術制作の思い出
今から遡ること十数年、私がまだ35歳で現場を走り回っていた頃の話です。ある日、一本の電話が鳴りました。お相手はなんと、あのフジテレビの制作担当者様。「ぜひ、社長にお願いしたい仕事がある」と、直接のご依頼でした。
ご依頼内容は、都内の大きな倉庫の鉄扉に「Mickey」と手描きするという、少し変わったお仕事。聞けば、当時大人気だったお笑いコンビ「ガレッジセール」のゴリさんが踊るシーンの背景美術とのこと。
テレビの向こう側の世界に職人として関われることに、胸が躍ったのを覚えています。
私の仕事は、描いては収録が終われば消してしまう、その場限りのもの。撮影が終わるまで、私とアルバイトスタッフは現場の隅で静かに出番を待っていました。
そんな私たちに、番組スタッフの方が「お疲れ様です」とロケ弁当を差し入れてくださったのです。
何気なく頂いたそのお弁当が、今でも忘れられないほど絶品でした。
丁寧に作られたであろう焼き魚、彩り豊かな煮物、一粒一粒が立ったご飯。「芸能関連の方々はお弁当もこんなに美味しいものを…!」と感動すると同時に、一流の現場の心遣いに深く感銘を受けました。
主役だけでなく、私たちのような末端の職人にまで最高の配慮をしてくれる。仕事の大小や役割に関わらず、関わるすべての人を大切にする姿勢こそが、人の心を動かす良い仕事に繋がるのだと、あのお弁当が教えてくれました。この経験は、弊社の仕事の根幹をなす大切な思い出です。